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自然の豐かな國に、十二の王樣がゐました
王樣たちは、神に見守られながら、仲良く國を十二等分しました
が、そのうちに領土の擴大がしたくなりました
戰爭の始まりです
神樣は再三彼らに忠吿しました
七つの王は鬪ひをやめました
殘りの五つの王は、神の仲裁を脇にやつて、より大きくて扇情的な鬪ひに臨みました
そして五つの王は、つひに神の制止を受けました
巨きな海を領土に持つ王は、子供を受持つ鞘を切り落とされました
以降、彼は誰かを受容れるしかありません
隣の巨きな森の領土を持つ王——の子孫とわちやわちやしながら、時々使者を送つては、土產物を詮索します
退屈な、退屈過ぎて傳記を書くことも忘れた森の領主——彼はこの森から出ることを許されない——は、ある日、隣の海の領土から、客人を迎へました
お客は、豪雨で氾濫した川の水を渡つてきたと言ひました
「それは大變でしたでせうな」
「いやはや、あの泥水には參りました」
客は、おなかの皮から、大きな大きな酒甁を持ち出しました
海の酒 海の酒
ご主人樣からお土產です
領主が覗いてあらびくり
「これは泥水ではないか!」
いやはや これはかういふものでして
なかなかの味なのですよ
さあ領主樣 お試しあれ
ごくりと喉を鳴らす 領主樣
まさか受取らないとは言ひますまい
泥の如く淀んだ|眼《まなこ》
甁の口を持つて とろりとそれを 流し込む
お客はにやりと笑つて——
領主樣、お粗末さまでした
これにて謁見、終了
|尾鰭《をびれ》がかたかた搖れてゐる
窓がたかたか叩かれる
雨なんて嫌ひだ!
領主がひとり言ちるのであつた
公開:2022年5月8日