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公開:2022年5月8日
「犯罪者の氣持」、なんて一括りにはしたくない。その人らはたまたま「犯罪者」になつただけで——下品な惡意から、人を突落して來た連中なんて、このサイトにはいくらでもゐるでしよ。ただ「犯罪」になつてゐないだけで。私は——ある時犯罪者と話した事がある。彼は人々の嚴しい監視や警吿を、笑つてゐた。「だつて俺には性慾が無いからね、何したつて無駄なんだ」。「ぢやあ、どうして强姦したの?」。「その女がむかついたから。——できなかつたら、毆るなり何なりしてた」。それから「一緖にゐてこはくないの」と言はれた。私たちはカラオケにゐた。こんな話、人がゐるところぢやできないから。私から誘つた。「すごく、近い」。數センチの間しかなかつた。「誘つてゐるの」。私は赤面した。身體に震へが走つた。私はそれを悟られまいと、必死だつた。「何でこんなに近いの」。「だつて、こはがつてるつて、相手に思はせたくないから」。私は言つた。彼が興味深さうな眼で、私の顏をじろじろと見た。「まあさういふ女もゐるよね、變つた男と遊んでみたい女」。「私は……確かに男が好きだけど、勿論强姦されたいわけぢやないよ」。「ぢやあ、俺が誘つたら」。私は、彼とホテルにゐるところを思ひ浮べ、それから好きな人を思ひ浮べた。「しないよ」。「ふうん、他の日は」。彼には私の考へが分つてゐる。「あたしは、普通のセックスはしない人間だから」。「普通のセックスつて」。彼が笑つた。「いれるセックス」。煙草の臭ひのせゐで、頭が痛くて仕方が無かつた。「煙草、やめてくれる?」。私は立つた。「どこ行くの」。「トイレ」。彼は灰皿に煙草をなすりつけた。廊下の空氣は、ひんやりして、新鮮に思へた。トイレから歸つて來ると、ココアとメロンソーダは半分になつたままで、その間にはくしやくしやの千圓札が置かれてゐた。「どうしたの、これ」。「俺、歸るよ」。「どうして」。「……今日は、ありがと。樂しかつたよ」。彼とはそれきりだつた。犯罪者になつた人との會話は、ぽつんとして、寂しくて、呆氣無かつた。