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第1集

小龍としての晩餐:隣人

 自然の豐かな國に、十二の王樣がゐました

 王樣たちは、神に見守られながら、仲良く國を十二等分しました

 が、そのうちに領土の擴大がしたくなりました

 戰爭の始まりです

 神樣は再三彼らに忠吿しました

 七つの王は鬪ひをやめました

 殘りの五つの王は、神の仲裁を脇にやつて、より大きくて扇情的な鬪ひに臨みました

 そして五つの王は、つひに神の制止を受けました

 巨きな海を領土に持つ王は、子供を受持つ鞘を切り落とされました

 以降、彼は誰かを受容れるしかありません

 隣の巨きな森の領土を持つ王——の子孫とわちやわちやしながら、時々使者を送つては、土產物を詮索します

 退屈な、退屈過ぎて傳記を書くことも忘れた森の領主——彼はこの森から出ることを許されない——は、ある日、隣の海の領土から、客人を迎へました

 お客は、豪雨で氾濫した川の水を渡つてきたと言ひました

「それは大變でしたでせうな」

「いやはや、あの泥水には參りました」

 客は、おなかの皮から、大きな大きな酒甁を持ち出しました

 海の酒 海の酒

 ご主人樣からお土產です

 領主が覗いてあらびくり

「これは泥水ではないか!」

 いやはや これはかういふものでして

 なかなかの味なのですよ

 さあ領主樣 お試しあれ

 ごくりと喉を鳴らす 領主樣

 まさか受取らないとは言ひますまい

 泥の如く淀んだ|眼《まなこ》

 甁の口を持つて とろりとそれを 流し込む

 お客はにやりと笑つて——

 領主樣、お粗末さまでした

 これにて謁見、終了

 |尾鰭《をびれ》がかたかた搖れてゐる

 窓がたかたか叩かれる

 雨なんて嫌ひだ!

 領主がひとり言ちるのであつた

次:洗決

前:緩衝材

公開:2022年5月8日

初出:2018年1月23日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]